世界拾遺記

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『ウィンクス・サーガ〈宿命〉』S1感想:魔法の強さが「強さ」じゃないファンタジー

Netflixオリジナルシリーズに新登場したファンタジー作品、『ウィンクス・サーガ〈宿命〉』。1エピソード50~60分を6話で1シーズンとなっている。まだまだ謎は残るものの、キャラクターが出そろって主人公たちの成長も見られて今後の展開が気になるところまでが公開となっていて、魔法、バトル、過去の因縁や傷を抱えた大人たち、ティーンエイジャーの葛藤と成長、ロマンスと盛りだくさんだ。

 

イギリスの魔法学校を舞台にした闇の魔法使いとの戦いを描く作品ということで、ハリーポッターぽさがあり、作中でもアザ―ワールド(ハリポタでいうところの魔法界)に来たばかりの主人公が早々に「ハリポタ知らんのかい」と言われている。作品の設定を理解する一助になるが、ファンタジー作品はどれもお互い共通点があるもの。『ウィンクス・サーガ』では妖精たちは、スマホもインスタも自動車も普通に使っていて合理的な世界が広がっている。

 

 

あらすじ

人間の両親のもとに生まれたアメリカのファーストワールド(人間界)出身の高校生、ブルームは魔法の力を見出され、イギリスの魔法学校〈アルフィア〉に入学する。

彼女は母親と反りが合わず、怒りに任せて魔法を使い寝室で就寝中だった両親を炎で襲って火傷を負わせてしまい、自分の力に怯えていたところをアルフィアの校長、ファーラに保護され、ようやく自分が火の妖精だと知ったばかりだった。入学してまもなく、自分はチェンジリング(取りかえ子)だと知ったブルームは、自分の出自について秘匿し嘘をつく校長や学校に対して不信感を抱きつつ、ルームメイトたちの協力を得ながら生い立ちを調べ始める。

それと同時に16年ぶりにバーンドワン(burned one, 焼かれた者)という怪物による襲撃が始まり、アザ―ワールド(The other World, もう一つの世界、妖精界のこと)が再び脅威に晒される。

そして、その陰でブルームの出自も関わっている16年前のある事件が暴かれていく。

 

 

キャラクターの名前の意味

『ウィンクス・サーガ』のキャラクターは、原作の位置づけにある『ウィンクス・クラブ』がイタリアのアニメということもあり、イタリア語由来の名前が多い。少し見てみよう。

ブルーム〈Bloom〉:英語、ラテン語で「花が咲く」

テラ〈Terra〉:イタリア語で「大地」 ラテン語由来で英語にもMediterranean Sea(med=中央、terra=大地、大地の真ん中の海で「地中海」), terrestrial(「地上」)などの単語で残っている

ミュサ〈Musa〉:イタリア語で「(音楽や文芸を司る)女神」

ステラ〈Stella〉:イタリア語で「光」

ルナ女王〈Luna〉:イタリア語、ラテン語で「月」 lunaという言葉はlunaticのように「イカれた」「狂った」などの意味に派生する。ステラの毒親で怒りなどネガティブな感情を魔法の原動力にする女王の今後を暗示しているのか。

ブルームのもう一人のルームメイトのアイーシャ(Aisha)はイタリア語由来ではなかった。アイーシャムハンマドの最も若い妻・アイーシャに由来するアラブ圏でポピュラーな名前で、アルフィアの校長、ファーラ(Farah)もアラビア語由来の名前だ。物語では登場しないキャラクターのバックグラウンドが反映されているようでもあり、調べてみると面白い。

 

 

感想

子供らしい無鉄砲に身に覚えアリ

手練れの戦士や妖精ですら倒すバーンドワン相手に、親や先生にバレたら怒られるなんて理由からブルームたちが独力で挑んで指輪を取り返そうとするなど、子供らしい無鉄砲さや、大人にいちいち頼らなくてもできるという謎の自信などに身に覚えがあって共感性羞恥を感じてしまった。あの、大人に報連相するなんて負け、大人が思うほど子供じゃないと本気で信じているあの感じ、もはや懐かしい。

 

ロザリンドの「強さ」とは

シーズン1で描かれた『ウィンクス・サーガ』世界での「強さ」は魔力でも魔法でも、武術でもない。情報操作と人心掌握術こそが「強さ」だ。ロザリンドの強さは、魔法の使い手としての強さもトップクラスだが、何よりも相手の見たいもの、知りたいもの、信じたいものを読み取って与えることで相手を操ることにある。ブルームもビアトリスもそれで彼女にいいように操られた。

ブルームがロザリンドに操られたのは、ロザリンドが信頼感も不信感も煽るのが上手かったからだ。彼女の「強さ」は他者を都合よく煽動するスキルの高さだ。それは魔法ではない。『ウィンクス・サーガ』は魔法の世界を舞台にしたファンタジーでありながら、魔法ではない力によって「強さ」が左右され、そのスキルが高い者が世界のトップに君臨する世界になっている。

ロザリンドがマインドの妖精だというのもあるが、信じたいものを信じてしまう人間の性質への理解とそこに漬け込み、利用するスキルは魔法ではない。ロザリンドの強さはそれだけに留まらない。メンタルが強靭な点だ。マインドの妖精はミュサのように、常に周囲の心の機微を感じ取ってしまい、特に死に際の葛藤などはトラウマレベルで魔法を使う側もダメージを負う。攻撃した相手の精神的苦痛や痛みを感じながらも虐殺を遂行したロザリンドのメンタルの強さは尋常ではない。

信じたいものを信じてしまう人間の脆さや無防備さ、危うさを熟知しているのがロザリンドで、それを過小評価というか、ロザリンドがそれに長けていると知りながらも警戒が十分でないのがファーラで、それに無自覚なのがビアトリスとブルームといったところか。

情報操作やデマによって他者を煽動する行為は現実でも起こっている。昨年のアメリカ大統領選の結果に対するトランプ前大統領によるバイデン現大統領へのデマや陰謀論は、最終的に信奉者による議会への襲撃まで招いた。信じたいものを信じさせてくれる人に疑いを持たない無防備さの危険性をまざまざと見せつけられたばかりで、このことを考えずにはいられなかった。