世界拾遺記

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アニメ『進撃の巨人』The Final Season 66話感想:ガビを煙たがるな

日本での視聴者の大多数は「マーレ人」

マーレ編でのパラディ島勢力による奇襲は『進撃』冒頭の超大型と鎧による壁内人類への攻撃の立場を入れ替えた再現であることは一目瞭然だ。視聴者は、それまでの壁内での死闘を見てきたのもあり、エレンたちの視点からこの奇襲を見てしまう。何万人も虐殺され、一方的に敵視されてきた壁内人類が戦力をたくわえ反撃の狼煙を上げた、と。

しかし、現実はどうだろう。『進撃』を見ている日本人の大多数は、日本に住む大和系日本人、つまり民族的マジョリティでありマーレ側だ。やりたくない仕事を押し付け、人権を実質的に規制し、偏見を向け、国民のガス抜きにマイノリティへのヘイトを利用し、マジョリティを批判する口を塞いできた側だ。なおかつ、これらに無自覚で無批判だ。

 

被害者意識しか持ち合わせていないガビ

そんな特権に無自覚な人間が突然、偏見を抱いている「敵」から攻撃されたらどんな反応をするだろうか。ガビのような反応をするのではないか。今まで散々「悪魔」と呼んで差別と偏見を向けていたのにそれをそうとは認識しておらず、一方的に自分たちは被害者でしかないと思い込んで憎しみをあらわにしていまうガビのように。

ポイントは、被害者意識しかないことだ。

ガビのセリフ、

「ウドとゾフィアがなんで殺されたのか、わからないから」

「ウドもゾフィアもエレン・イェーガーにやられたんだよ」

に表れている。「マーレがパラディ島を攻撃したから」がすっぽり抜け落ちていて、島を「悪魔」呼ばわりしたり、日常的に「皆殺しにしてやる」と言ってることを加害だとは認識しておらず、被害者感情のみに支配されている。

 

ガビを煙たがるな

襲撃されて島やエレンを一層憎悪するガビに対し「同じことエレンたちもされたのに」「被害者はガビだけじゃない」と思うのは容易いし、これまでの壁内人類の被害を考えれば、ガビは盲目的で世間知らずに映る。アンチが多い理由もここにあるだろう。

しかし、現実の、自分がマジョリティをやってる社会でマイノリティから攻撃されるレベリオ襲撃のようなことがあったら、衝突のバックグラウンドなど一切考慮せず被害者感情に飲み込まれ、偏見そのままに悪魔、皆殺しと叫ぶガビのように怒り狂う人が多いのではないか。

実際、日本では国内の外国人に対してガビのようなマインドでガビのように憎悪を募らせている日本人が残念ながらそれなりにいる。Twitterの桜や日章旗アイコンがそれだ。彼らは決してネット上だけの存在ではない。隣人や同僚や親戚が「ガビ」かもしれない社会が日本だ。日本社会で日本人をやってる以上、ガビを煙たがってはいけない。ガビを煙たがることは、外国へのヘイトや狭い視野に囚われ何が何でも「祖国」を妄信することを放置することを意味する。実質、それらを肯定しているようなものだ。

「祖国」への愛国心に目が曇り、「祖国」の加害性を無視し被害にばかり固執し攻撃も辞さない者を自分とは無関係な異端者だと目をそらしてはいけない。自分の中にも銃を握りしめた「ガビ」はいると常に考えるべきだ。

 

もちろん、エレンたちは散々いたぶられてきたのだから、収容区での虐殺が免責されるわけではまったくない。その逆も然りだ。そもそも戦争加害の責任を2000年間押し付けあっている物語が『進撃』だ。

 

 

もうまったくの余談だが、現パロのガビはQアノン信者で先日のトランプ支持者による議会での暴動をANTIFAのせいと考えてるうえBLMを暴力認定してる移民2世のアメリカ人って感じがする。